ジーコジャパンレポート

2006.6.26 日本代表監督退任会見

日本代表のジーコ監督が26日、東京都内で退任記者会見を行った。多数の報道陣が詰めかけ、多くのテレビカメラを目の前にして、約40分間、熱弁をふるった。4年間の指揮で日本代表に何を感じ、何を残したのか。一言一言をかみ締めるように、訴えた。今後は、今月末にブラジルの自宅に戻る予定だ。

ジーコ監督に聞く

「こうして、再び皆さんの前で話すことができて非常に光栄です。できれば、これが最後ということではなくて、これからもいい関係を続けられればと思います。最初に、この場をかりて、感謝を述べさせていただきたい。まず、15年前に私と日本をつなげてくれた住友金属のスタッフの方々、それから鹿島アントラーズの方々。この方たちの尽力がなければ、日本とのつながりは全く想像できなかった。ましてや、こうして日本代表監督という大任を受けることもなかった。
鹿島での10年間の後に、ここにいる川淵キャプテン、協会の方々の尽力により、日本代表監督を務めさせていただいた。この4年間、自分を信じていただき、最後まで全うさせてもらったことに心から感謝したい。また、本当に多くのファン、サポーターの方たちに支えられて、またメディアの皆さんにも最大限時間を割いていただいたことにも感謝したい。自分を最後まで信頼していただいた結果、最後までいい仕事ができたと思っている。
振り返ってみれば、当時は日本サッカー界がアマチュアからプロになる時で、そういう重要な時期に招いてもらった。自分は40年近くサッカーの世界にいるが、その経験を最大限伝えてきたつもりだ。しかし、代表での4年間も含めて、自分ができなかったことも幾つかある。ただし、その時々に必要なこと、ピッチの中でプロとして必要なことや、リーグ運営の理想像などを取り入れてもらった。特にこの4年間で、皆さんに自分が胸を張って言えることは、少しの秘密もなかったことだ。自分の考えていること、仕事の内容など、すべてを皆さんにおおやけにしてきた。W杯以前にもいろいろな問題があったが、それを皆さんと一緒に1つ1つ乗り越えてこられたことをうれしく思う。
これだけ世界のサッカーの力が拮抗している中では、3連勝もあれば3連敗もあり得る。だが、そう中で、最大限努力することを約束した。結果として決勝トーナメントには行けなかったが、その努力に関しては、うそ、偽りなく、自分の知識を、チームのために最大限使ったと思っている。
私の指揮した日本代表は、本当に力のある選手がそろっていた。W杯ではいい成績を残せなかったが、この4年間を通して確実に成長してきたし、また、それは代表だけでなく、日本サッカー全体のレベルアップにつながったと思う。何が足りなかったのか、あるいはこれからの日本サッカーが見つめていかなければならない問題点の1つとして、安定した判断がある。そうでないと、得点につなげることができない。
例えば、ドイツ戦であれだけいいサッカーをしながら、次のマルタ戦でまったく違ったチームのような出来になった。多くの試合を通して、コンスタントに力を発揮できるようになれば、本物になると確信している。
今大会で感じたのは、体格差だった。フィジカルの強い相手とやるときに、90分間通して相手の攻撃に耐えられるようにならなければいけない。ただし、これは個人個人の問題というより、若い時から鍛える必要がある問題。そういう環境がなかった代表の選手たちは彼らなりに精一杯やったが、その体格差の壁を越えることができなかった。世界と対等に戦うためには、そういう部分もこれから考えていかなければならない。
また、これはスポーツ医学的な問題だが、代表と各クラブが協力してやってもらいたいことがある。日本の選手は、筋肉の損傷であるとか、骨折から復帰する日数があまりにもかかり過ぎる。これは日本人が筋肉の質で劣っているという問題ではない。
例えば、今回のW杯でも試合が終わって移動するときに、多くの日本の選手はアイシングをしながらバスに乗り込んでいたが、ほかのチームではそういったシーンは見られなかった。彼らはどういう治療をしているのか、ケガに対する予防やケアをどうしているのか。食文化の違いなどもあるが、もう少しそういった面を突き詰めて、世界の最先端の国と接触を持ちながら、交流することが必要になってくると思う。体格で勝る相手と試合で当たった時、こちらがケガを抱えた状態でいると、満足な状態で戦う以上にハンディを生む。代表で調整する時間は非常に短いわけで、それぞれのクラブでそういうことも意見交換して、よりよいものを作っていってもらいたい。
上背がある相手と対戦する際、最初は相手も足元で回してくるが、分が悪くなってくると中盤を省略する形でロングボールを放りこんでくる。そして、特に欧州の国では、190センチ以上の上背を持った攻撃陣がいる。実際にその相手と勝ち点3を奪い合う真剣勝負をやったときに、90分間持ちこたえることができない。
オーストラリア戦が終わった後に宮本と話をしたが、「1試合とは思えないほど疲れた」と言っていた。というのも、相手がロングボールを入れてきたときに体を当てたり、相手のバランスを崩すためにジャンプが必要になるが、それを異常な回数繰り返したためにふくらはぎに負担がかかって、尋常ではない疲れとなったようだ。
世界のサッカーは、日本に対して足元でかなわなければ、絶対に体格差で上回ろうという戦術を取ってくるはず。こういった面の予防や、ジャンプに必要な筋力を鍛えることが必要だ。かつてバレーボール界で起こったことだが、世界を制した日本のアジリティーに対して外国選手がパワーで対抗し、日本の成績が落ちるというようなことがあった。このようなことが日本のサッカーでは起きてほしくない。フィジカルを鍛えていくことは、日本の選手にとって無理ではないと思う。
私も何十年とブラジル代表で見てきたが、海外に出て長くプレーしている選手、例えばロナウジーニョやカカらはブラジルにいた時は華奢だったが、それぞれのクラブで鍛えて見違えるようになった。彼らも日本人と同じような体格だったわけだから、各クラブの鍛え方次第で日本人も確実に進歩すると思う。これは短い期間しか集まることのできない代表ではできないので、各クラブで研究してもらえればいい。
アジアを見ても中国には非常に体格のいい選手が多いし、今後はオーストラリアもアジアの枠で出場することになる。また、旧ソ連から独立した国々もある。彼らがさらに鍛えて予選に臨んでくるわけで、日本はこうした国々を打ち破ってW杯に出場するという難関が待ち受けている。是非、皆さんの力でこの問題に対応してほしい。こうしたことを言うのは、決して今大会の言い訳ではない。
パワープレーだけで勝負が決まってしまうこの状況は、これからも続いていくと思う。私はこの状況を快く思ってはいないが、4年間にわたり日本の選手たちと仕事をしていく中で、選手と監督以上の友情関係を築いたサッカー界のかわいい後輩たちが、身に付けた技術を生かせずに体格だけで負けてしまう、あるいは勝ち切れないという結果が続くことのないように、心から祈っている。
日本のお手本としては、台頭しているアフリカ勢が挙げられる。今大会はガーナが、前回大会ではセネガルがいい例だ。一時期、アフリカの国々は上背はあったが体格的には弱かったために、世界のレベルに達することができないことがあった。しかし、彼らも欧州に出るようになって、あるいは自国に専門家を招いて、アフリカサッカーの存在感を増した。日本もそういった努力によって、自分たちの良さが生かせるときがくると思うし、そうなってほしい。
私の日本での15年間の歴史、私と日本との直接的な関係はここで一度途切れるが、将来、また一緒に仕事ができればと考えている。先日、選手たちには「自分ができることであれば世界のどこにいようと何でもするから」と話した。これは嘘、偽りのない気持ちで、私の経験を、是非生かしてもらいたい。
最後になるが、自分を信じて温かく見守ってくれた皆さんとの関係は、これからも続けていきたいし、いつでも連絡をもらえればと思う。当面はリオデジャネイロに帰って仕事をすることになる。チャンスがあれば、欧州で監督をしたいという気持ちもある。連絡をもらえればどこにいても、できる限りのことをさせてもらうつもりだ。長い間、本当にありがとうございました」

-オーストラリア戦で、小野や大黒の投入について、そのさい配が適切だったか。
「小野は1-0でリードしている段階で投入した。相手は自陣からロングボールを多用し、次々と大きな選手を送り込んできた。「なぜ大きな選手を入れて対応しなかったのか」とよく言われるが、中盤を省略した形で押し込まれているということは、相手の中盤から後ろにはかなりのスペースがあったということ。
小野をボランチに入れることで、中田英を前に押し上げた。中村はかなり疲れてはいたものの、1本のパスを出して試合の流れを変えることができるので残しておきたかった。小野のパスを散らす能力で、前掛かりになったオーストラリアの裏へボールをつなげようと思った。追加点を奪うべくチャンスを作り出していたが、もっとチャンスを増やして追加点を奪うことを考えた。
大黒の投入に関しては、同点にされた後も数回のチャンスはあった。そこで、彼の良さを出してもらいたかった。前線でためを作ってくれというような要求をしたわけでない。今まで彼の得点でチームが救われたこともあったが、その形を期待した。
計算外だったのは、相手の攻撃を抑えていい活躍をしていた坪井が、筋肉の痙攣を訴えたことだ。そこで茂庭を入れたが、彼と同じリズムで防ぐには難があった。最終的にはDFを1人外して、FWを投入した。あれは異例なケースだったと思う。
自分の采配に関しては、選手が指示した通りに動いてくれて勝った試合もあったし、そうでない試合もあった。サッカーにはまったく同じシチュエーションというものはない。あのとき私は、「このさい配でチームが勝てるのではないか」と考えた。残念ながら、思ったようにはならなかったが、「判断が間違っていたのではないか」と言われても、今も自分としては間違っていなかった、適切な判断をしたと思っている」

-監督しては初めてのW杯。後悔は。
「反省は、まったくない。サッカーの監督は、後から「ああすれば良かった」と言えるものではなく、そのさい配をする時点で瞬時に判断をしなくてはならない。それが自分に任せられた全権であり、責任だと理解している。
自分がさい配をして結果が出なかった時も、私は選手の責任にしたことは一度もない。周りの人から何かを言われて、その通りにしたから負けた、ということも私は言ったことがない。第3者が判断することなので「お前じゃダメだ」と言われれば、甘んじて受ける気持ちでやってきた。本当に大きな責任の中で選手たちとやってきたことに対して、反省するこということはまったく考えていない。
試合の前には必ずトレーニングがあり、テストをして選手を選んで、試合に臨む。最終的に選ぶのも、トレーニングを組むのも自分。ほかの方の意見は十分に参考にはするが、最終的には自分が責任を持って決断しなければならない。これについても4年間、全うしたつもりでいる。
今回のW杯出場に関しては、日本代表の監督としてピッチに立ち、感動しながら仕事をさせてもらった。予選の時期から選手や関係者とともに、いろいろな難関を乗り越えてきた結果として得たものだ。世界の32チームの1つとしてW杯に参加できた。私と同じような時期に始めた監督でも、途中で更迭などによって最後までチームの指揮を全うできなかった人もいる。その人たちの思いを考えると、「自分は何て幸せなんだ」と思う。
結果こそ出なかったが、1試合ごとに自分が持っている知識や選手への信頼をすべて託して、自信を持って戦った。だから、悔いはないし、恥じることもない。全身全霊で打ち込むことができた4年間だった」

-体格の差を補う術をほどこした?
「当然、それは分かっていたので、4年間を通してできる限りの補強運動を行い、強いチームに対してのベース作りを行ってきたが、思うようにはいかなかった。そこでW杯本大会が近付く中で、相手にリスタートをできるだけ与えない、不必要なファウルをしない、ロングボールを放り込まれたときでもなるべくコーナーキックにはしない、あるいはロングスローもあるので相手自陣に近いボールを蹴るようにということを繰り返してやってきた。
実際に、セットプレーで放り込まれる数が少ないほど、ジャンプの繰り返しは防ぐことができ、消耗を避けられる。40本を放り込まれたとして、2点を奪われたとしても38本は防いでいることになる。40本を20本、10本と減らせればという計算をしながら、取り組んできた。ただし、W杯中やその前のドイツ戦もそうだったが、自分たちがボールを持ったときには攻撃のきっかけを作ることはできるが、あの緊張感と責任の重さの中で、90分間すべてを防ぎ切ることはなかなかできない。残り時間の少ない中で得点を奪われて、勝ち損ねる試合が続いた。ただ、あの時期に選手たちとできることは、それぐらいだったと思う。
オーストラリア戦では、頭が真っ白になる猛暑の中で、体を酷使しなければならなかった。しかし、高いボールがすべてではなかったと思う。足元での突破が図れないと、中盤を省略して自陣から大きな長いボールを上げることになる。そうなると、こちらが前掛かりになってボールを奪われたときに、相手は前に持っていけばいい。そうすると、DFがクリアしたボールを中盤が拾いにいかなければならず、その繰り返しになると、ちょっとしたスペースが生まれてしまい、そこを相手の2列目などに突かれてしまう。そういうケースで点を取られたと思う。
クロアチア戦では、ロングボールを放り込んできたが、日本から得点を奪えなかった。非常に苦しい中で選手たちはしっかりやってくれたと思う。体格の違いについてだが、相手にセットプレーを与えないだけで、日本は勝ち切れるだろうか。相手はもっと巧妙なパワープレーを仕掛けてくるだろう。だから、体格の差を何とか克服するような努力が必要だと言いたかった」

-日本に残すことができたと思う点は。
「今までは相手の名前を聞く、あるいは相手のユニホームを見た時点で劣等感を抱いてしまったようなチームに対しても、劣等感を持たない自信。また戦術面は別として、各自が自分のやれることをしっかりとやれば勝てるんだという気持ちを選手に植え付けることができたと思う。
監督業を続けていく上でという意味では、すべて。監督としてという意味だけでなく、人間として日々何かを学びたいと思っている。学ぶことは永遠に尽きない。あくまで主役は選手であり、監督は自信を持ってピッチへ送り出す手助けしかできない。
その中で一番大事なのは、インフォメーションの豊富さ。現在のサッカー界に起きている出来事、あるいは起こり得ること、自分が得たものから選手たちに的確な情報を与えられるということが、良い監督であるかそうでない監督であるかの1つの大きな分かれ目になる。サッカーの動向を見据えながら、その点を蓄えていきたいと思う」

-今大会、アジア勢が結果を残すことができなかった。若手の育成に関しても。
「アジア勢が決勝トーナメントに進めなかったことは残念だが、ほかのチームとは差があった。これからアジアのチームが考えなければいけないことは、監督ありきでは強くなれないということ。経験豊富で世界的に結果を残している監督が来たからといって、チームは強くならない。選手のメンタルやフィジカル、テクニック、戦術の理解度といった面を含めて、選手が資質を上げていくことが大事。フィジカル面では欧州との差が目立つが、そういった差が開かないように個々が努力しなければ難しいと思う。
今大会、決勝トーナメントに進出した名前のある監督でも、体格差で劣るチームを率いていたときにはいい成績を残すことができなかった例もある。それでも欧州のチームを率いると勝ち始める。監督のさい配以上に、選手の資質が問われる。日本と韓国は非常にいいライバル関係を築き上げてきたが、それ以上に世界に目を向けてフィジカル的に優れたチームとやることで、自分たちの良さは何なのかと突き詰めながらやっていかなければ、将来的には難しいと思う。
若手の経験に関しては、次の監督の考え方、どういったサッカーを目指すのかに尽きる。私の意見としては、経験面よりも体格差の面で、これからアジアに入ってくるオーストラリアと、もともと日本より体格に優れている中国が日本にとって脅威になる。日本も負けないように、チーム作りや選手選考をやるべきだとしか言えない。世代交代も進んでいくと思うが、次のW杯に向けては、オーストラリアへの対策が大変になると思う」

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