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マラドーナの教訓

[2004.04.27]

私はマラドーナの健康状態に関する情報を大変心配に見守っています。彼が天才であることには疑いの余地はなく、紛れもなく私のジェネレーション(世代)において最大なるクラッキ(名選手)でした。残念なことに彼は、世界中のピッチで巧みにボールを操っていた様に、自分の人生を導く事が出来なかったのです。でも、マラドーナが肥満と薬物の関連性により緊急入院し、人工呼吸器の補助を受けているという現状の中、直ちに脳裏を過ぎるのは彼が回復することを願う気持ちです。

アルゼンチンのクラッキにとって、この困難の乗り越えるということは唯単に退院を果たすだけではありません。現在マラドーナは完全にアンビギュイティ(両義性: ある概念や言葉に、相反する二つの意味や解釈が含まれていること)

な人物です。彼はピッチ内と外で大きく異なった、人間にとって善と悪の教訓とも言える、二つのストーリーを描いたのです。今回の本コラムはこのテーマについて熟考したいと思います。

崇拝。アルゼンチン国民が母国の偉大なる英雄に対する関係を最も的確に表現出来る言葉ではないでしょうか。その関係は大変強い絆で結ばれており、いわゆる彼を崇めるある一種の宗教的存在とも言えます!彼のプレーを実際に眼にした者であれば、その Fascination(幻惑・魅惑・魅力)は少なかれ理解できる筈です。彼がボールを巧みに操る様はファンタスティック(空想的な・途方もない)であり、尚かつ相手を翻弄する魔法の様なプレーは、観ている全ての者をパッション(情熱・熱情)の渦に巻き込むのです。

1979年のワールドユース(ジュベニール)での優勝、ボカ・ジュニオールスの真のリーダー、ナポリ最大の英雄、1986年W杯でアルゼンチン代表としての優勝。これらは、彼の数々の功績の一部です。マラドーナのピッチ内での芝生上での勇姿は、ボールに対するアビリティー(能力・才能)とインテリジェンス(知能・知性)のシンボルでもありました。そして、勿論レフェリーに悟られずにですが、足で可能でなければ、手を器用に使用してゴールをゲットした程です。

私は、幾度となく彼と対戦する機会に恵まれ、フラメンゴとブラジル代表では勝利し、ウディネーゼでは引き分けました。でも、これはあくまでも興味深いデーターであり、我々の歴史は個人的な対抗意識で語ってはいけません。何故なら、サッカーは団体スポーツだからです。私が特に残念に感じるのは、仮に草サッカーであれ、一度たりとも彼と一緒にプレーが出来なかったことです。例え引退試合でも、味方同士として同時にピッチに立ったことがないのです。ミシェル・プラティニの引退試合では、彼と交代して私が入りました。結局、一緒にプレーはしなかったのです。あの時に私がプラティニと現在のような親交があれば、もしかしたらマラドーナと一緒にプレーが出来るように頼んでいたのかも知れません。

彼の足跡は闘士とアビリティー(能力・才能)、そして勝者の証でもあります。正に、これらはマラドーナがサッカー選手として残すべく最大の財産でもあったのです。でも、残念なことに、未だ現役時代に知られざる英雄の側面が浮かび上がりました。その後、本人自らも麻薬常用者であり中毒者だと告白をしたのです。そして 1989年に、ナポリで会い、マラカナン・スタジアムで行われる私の引退試合に招待した時には既に彼の変化を感じ取ることが出来ました。アスリートとしては奇異で、腫れている様な表情をしていたのです。そして、時間が彼の異常を露わにしたのです。

あの 1980年代のボール(サッカー)の天才ディエゴ・マラドーナを現在の姿に至らせた過程を察すれば、彼の生き様が異なる教訓を我々に気付かせてくれます。アルゼンチン郊外の貧しい少年時代から世界のトップへと上り詰め、その地位から麻薬中毒の治療のため入院、そして今回は病院のベッドに横たわっているのです。

サッカーと並行して、人間マラドーナは間違った取り囲みの連中との付き合いによって誤った道を選択してしまったのです。その結果が、サッカーの如く容赦なく、彼の身体に反映したのです。今日、彼は未だ若くして、麻薬と辿った人生が原因となり、生命の危機に立たされています。彼個人が歩んだ道のりは、紛れもなく誰しもが自分には望まない人生であり、そして我々に、特に若い世代に対しての警告でもあります。

実際に私は、彼のサッカーに対して常に大いなる感嘆の念を抱いていたこともあり、人生がこの様な行方を辿った事実が心から嘆かわしいのです。マラドーナがナポリ時代に、私から学んだと言って捧げてくれた、 FKで決めた得点を想い出します。そして最近では、2002年W杯時に彼がわざわざ私に挨拶をしに来てくれ、愛情の表現を示してくれたことも記憶が蘇ります。

そして今、全てのサッカー愛好者、感傷的アルゼンチン国民、そして全世界のファンが、ディエゴ・マラドーナの回復を祈っているのです。それ以上に私は、伝説であり 4人の子供の父親でもある彼が、この苦難を乗り越えてくれる事を願っています。今後は永久的に麻薬とは縁を切り、この経験を語ることで、マラドーナの生き様は良しも悪しも、誰しもが選択する道次第では起こり得る人生の実例である事を強調して欲しいのです。

頑張れマラドーナ!フォルサ・ディエゴ!

ウン・グランデ・アブラーソ!

それでは、また来週!

ジーコ直筆サイン

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