ジャパンコネクション

監督としてのミッション(使命)

[2003.12.23]

ジーコ監督 最近、ESPNブラジルの番組でデニルソン選手が、自分はレベルアップし今以上に優れた選手を目指したく、進化する為にサッカーのファンダメンタル(基本)を厳しく要求する監督の下でプレーがしたかったと言う発言を耳にしました。彼は私の名を挙げ、私自身から多くを教えてもらえたのではないかとも口にしたのです。私も彼と一緒にグランドで仕事をする機会が無かった事を残念にも思います。何故なら、彼はドリブルを仕掛けるタイミングをもっと的確に判断する必要性があり、これを見極める事により一瞬の間に敵の選手達を難無く抜き去る事が出来るのです。彼の持っている高等なテクニックは非常に権威であり、敵を引き付ける事で紛れもなく味方の選手がフリーになるのです。だからこそ、この才能を如何に効率良く活かすかが重要なのです。

デニルソン選手の発言を聞き、私がブラジル代表テクニカルコーディネーターに就任した1998年のW杯以前にカフー選手に関するエピソードを思い出したのです。マラカナンスタジアムでアルゼンチンと対戦し0-1で敗北を喫し、その際、ことごとくクロスの精度が悪かったカフー選手に対してサポーターが罵声を浴びせたのです。このゲームがW杯へ出発直前のラストゲームだったのです。クロスボールがあまりにも的から離れた場所に跳んでいたので、フランスでの練習中に私は我が右サイドバックに何が起こっているのかを見極める為にゴールライン裏に立ち観察をする事にしたのです。

すると次の様な事に気付いたのです。彼は、ボールをコントロールするワンテンポを有する場合は、軸足が正しい方向を向き精度の高いクロスを上げるのです。でも、ボールが動いている状態で、ダイレクトで蹴る時は高く上がり過ぎるのです。何故この様な状況が起こるのかと言いますと、彼の左足が必ずしと言っていい程ゴールラインの方へ向いていたからなのです。駆け上がりながら、ダイレクトでボールを捕らえる瞬間、体制が崩れていたのです。せめてワンタッチでもボールをコントロール出来るとこの様な現象は起こっていなかったのです。カフー選手を呼び、この事を彼に説明し、軸足に注意を払い常にクロスを上げる瞬間はエリア方面へ向かせるようにアドバイスをしたのです。

カフー選手は、熱心に耳を傾けて聞きました。そして、サイドバックでプレーをした戦術トレーニングでは、約15分間で20回程センターへ切り込むケースが有ったとも付け加え、敵の意表を突く為には動きにバリエーションを持った方が良いのではとアドバイスをしました。

彼は感謝し、W杯ではクロスの精度も上がり確実に進化を遂げ、良い結果を残す事が出来たのです。だからこそ、監督の大事な役割の一つとして選手個別の指導も必要だと思うのです。勿論、チームワークも戦術も重要な要素なのですが、例えそれが代表であれファンダメンタル(基本)を決して怠ってはいけないのです。中にはその様には考えない監督も存在し、選手はサッカーを知り尽くした状態で合流すべきだと尊重する事で、選手自身の進化を妨げ、チーム全体のパフォーマンスにも影響を及ぼすのです。

私が現役時代、フィニッシュの練習をしている時には常に監督が隣にいてゴールへ向いてGKの位置の確認をする等の指導をしてくれる事を好みました。この執拗な迄の完璧への拘りが、ゲームビジョンも養ってくれたのです。例えば、ドリブルに持ち込む場合は、前線で仕掛けた方が紛れもなく相手にとって危険を及ぼしチャンスを招く確率が中盤で仕掛けるよりも確実に高い事などの判断力を身に付けたのです。私は、自分自身が上達する課程に於いて素晴らしい監督達に恵まれていたのです。ジョウベルチは、パスとボールコントロール(支配)の特殊トレーニングに関して常に没頭し、とても厳しい監督でした。代表ではテレ・サンタナ監督が大変特徴的でした。10回シュートし1つミスをすると執拗な迄に成功を追求する完璧主義者でした。INDIVIDUAL(個)が進化する事によりCOLLECTIVE(全体)のレベルアップに繋がるのです。事実、これを教訓とし現在日本代表でも常時気配りを欠かさないように心掛けているのです。練習の多くの時間を守備・中盤・攻撃のポジション別にファンダメンタル(基本)の特殊トレーニングに費やしするようにしています。

スポーツのみで無く人生に於いてもクリエイティブ・パワー(創造力)は必須要素なのです。でも、サッカーの場合この創造力と完璧な迄の技術向上が兼ねあえば驚くべき結果をもたらし突出する事が出来るのです。ボールコントロール(支配力)・正確なヘディング・左右の足での鋭いパス…等、これら全てが上達する事により周りの全員が一緒に進化を遂げるのです。80年代のフラメンゴ時代を思い起こせば、私はゴールポストの角にユニフォームを吊したり又はGKに参加してもらいFKの練習に没頭したものです。それだけに止まらず、居残りでジュリオ・セーザルとジューニオルとでゲームを想定したフィニッシュの練習を彼らにクロスを上げてもらいながら行っていたのです。私にだけでは無く彼らにとっての特殊トレーニングでもあったのです。こうして全員が進化していったのです。

如何に、素晴らしい選手又は既に成功を収め認められた選手であろうと、アスリートたるものは決して技術向上への努力を忘れてはならないのです。そして、監督の使命として常にそのことを意識させ要求する必要があるのです。これは大変重要なことであり、ちょっとしたアドバイスが有益なものに成り得るのです。もう一人の例は、鹿島アントラーズ時代のレオナルド選手です。彼は右足でのキックやボールコントロール等に対して恐怖心を抱いている程でした。例え、身体のバランスが崩れていようとも全て左足で行おうとしていたのです。私は、彼に一瞬でも早く時間を短縮し敵に対してアドバンテージを得る為には両足を使える事がどんなに重要かを伝え、右足でのパスやシュートをマスターする為の練習をこなすように言ったのです。

INDIVIDUAL(個)の発展に注意を払わないチーム又は代表を観ると大変残念に感じるのです。彼らは、集合しグループトレーニングを行うのです。勿論、これも大変重要な事ではあるのですが、実際には私がこのコラムで綴って来た事が欠けているのです。バレーボールを観て下さい。彼らは練習で数知れない回数のボールを上げ、そしてアタックのトレーニングをするのです。常に向上心をもって執拗な迄に繰り返し、コンスタントな調和を築き上げるのです。サッカーでも同様に、フォワードはシュート、サイドバックはセンタリング、そして中盤の選手はロングパス等の練習に明け暮れなければいけないのです。プロフェッショナルとして、そして社会人としても常に向上心を持って生きて行く必要があるのです。我々一人一人が自分自身の持ち得るベストを追求し、常にリミット(限界)を目指して進化し続けなればならないのです。

それではみなさんメリークリスマス!
ごきげんよう… また来週お会いしましょう。

ジーコ直筆サイン

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