ジャパンコネクション

マスコミとサッカー

[2003.08.26]

ジーコ監督選手としてのフラメンゴとウディネーゼでの時代、ブラジル代表としての選手時代、その後鹿島アントラーズでのテクニカルディレクター、ブラジル代表テクニカルコーディネーター、そして現在日本代表監督として、私のサッカー人生に於いて常に誠実さと信頼に支えられマスコミとは素晴らしい相互関係を保ち続けて来ました。建設的な批判などは積極的に耳を傾け、自身のプラスに出来る様に心掛けています。もちろん、若かりし時代はなかなか受け入れられない状況などもありました。但し、成熟と共に色々理解出来るようになり、そして人は成長して行くのです。でも、必ずしも絶対にごまかしていけないという前提で物事を捕らえる様にしています。だからこそ、幾度かトラブルが生じた時には、大小に関わらず必ず私は正直に相手と話し合って、何れのメディアにも影響を与える事なく解決して来ました。

皆さんは、今週のこのテーマを不思議に思っていらっしゃるかもしれません。今回この様なテーマを取り上げる決心をしたのはここ最近起こっている現象を見逃さない為にです。それは、多くの情報が世界中を旅する事によって実際の意味合いとはかけ離れた内容となって報道されているからです。話題の「ターゲット」とされるのを迷惑に感じているわけではありません。スポーツ人にとってはある面ごく自然なことだとも思っています。私が心配しているのはブラジルで伝えられる意味の誤った情報なのです。以前にもこのサイトなどを通じてお伝えしたと思いますが、例えば、英語圏の記者の取材に応じたとします。記者は直接英語で私に話をせず、先ず日本語の通訳に伝えます。その通訳は日本語で私の通訳を経由し、最後に彼がポルトガル語で私に伝えるのです。そして、私の言葉もその逆の経路を辿るのです。即ち、言葉は数回経由し、旅をしながら最終目的地へと辿り着くのです。正しく、言葉の徘徊なのです。原稿に3つ4つ微妙な意味合いのフレーズを掲載するだけで全体の内容が異なって来る訳です。私が、本サイトを開設したのも直接自分の考えを公開する事が出来るからでもあります。

大変興味深い事でもありますが、実際に私は過去一度たりとも、ブラジル、イタリア、更には日本でもマスコミと摩擦を起こした事はありません。むしろその逆とも言えるでしょう。日本代表監督に就任して以来、約一年間、常に10数人の記者の皆さんが何処へ行くにも同行します。サッカー協会で行われる記者会見、又は、日本各地で開催されるアディダス主催のサッカークリニックなど、常時彼達と交流をしているのです。他と比較をするのは好きではありませんが、以前はこの様なオープンな交流はありませんでした。代表監督就任直後、彼達に私の鹿島アントラーズ時代での対応姿勢に付いて聞いた事を覚えています。一度もトラブルが生じた事は無いのです。その様な関係から、日本代表でも常に彼達に対してオープンなのです。非公開な秘密練習は行っていません。選手達に対しても自分達の意見や考えなどを自由に述べられる環境を与えています。一切制限はしていないのです。この様な状況から、私の仕事に対するマスコミの反応は大変協力的なものです。例えば、私の実母が亡くなった時、多くの記者の皆さんが成田空港迄足を運んでくれ、心の隠った弔電と、そして温かいお悔やみと慰めの言葉をかけてくれたのです。これはあくまでも一例に過ぎません。この様な良い環境の中、ナイジェリア戦を控えている前週のブラジルでのニュースを目にし、いかにも私がマスコミやサポーターから勝利へのプレッシャーにさらされているかのように、更には私の首が危ぶんでいるかのように…取り上げられているのです。

私は、ナイジェリア戦に勝利を収め用事を済ませた後、U-15日伯友好カップの決勝ラウンドを観戦する為にブラジルへ一時帰国をしました。そして再度成田空港に降り立った時、到着ロビーにはいつもの約10人の記者に出迎えられ、「勝利へのメッセージカードとサングラス」を手渡されたのです。素晴らしい事です。一体何処に皆さんが取り上げているようなプレッシャーと最悪な雰囲気が漂っているのでしょうか?代表の試合は常にチケット販売開始とほぼ同時に売り切れ、サポーターの皆さんはスタジアムを毎回埋め尽くしているのが現状です。現在ホームで7試合を消化し、常に熱い応援を頂いており、ファンの皆さんは終始暖かいサポートをしてくれているのです。アルゼンチンに2敗しましたが、過去に一度も勝利を収めた事の無い相手です。そして、韓国に1敗。この試合は相手が全勢力で挑んで来たのに対し日本は「海外組」不在で戦ったのです。但し、アウェイでは過去日本は2勝しかしていなかった韓国を敵地で下しております。結果の通り実際には、弱小相手に敗北を喫した訳ではありません。それにも関わらず、ブラジルでは「首が危ない」や「プレッシャー」等と報じられているのです。正直、私は「聞き流せば良いのか」「笑い飛ばせば良いのか」、一体どの様に反応するべきか理解に苦しみました。ただ大事なのは、私は仕事に対する方針を変えてない事です。勿論、7試合目と云う事もあり、是が非でも勝利を得たいと云う強い気持ちは誰もが持っておりました。但し、プレッシャーから逃れる為では無く、我々は日本国民に「感喜」を与える事がいかに重要かと認識していたからです。試合前のミーティングで私は主にこの事に付いて語りました。

日本代表監督としての新たなる挑戦は、まず第一に日本に対する「愛着心」と「熱意」から受けたものであり、特に日本代表監督への「執着心」が有ったからではありません。完全にチームの戦い方を変更し、更には新しい選手も投入する事でベースを構築しました。私は、今、非常に平穏に感じており特に不安はありません。なぜなら、W杯予選を戦うに於いて、チームも含め必要な要素は整っているからです。期待感と満足感溢れる素晴らしい雰囲気だと確信しております。日本サッカー協会にも支持されており良い環境の中、仕事が出来ているのです。以前、中田選手は無口であまり誰とも会話をせず常にクールな姿勢を保っていると言われていました。彼を知る元日本代表監督でもある岡田武史氏は、控え室で中田選手が微笑んでいる姿を見て、常に真剣な表情しか見せなかった彼の変化ぶりを不思議に思ったくらいです。これで皆さんにも理解して頂けたかと思います。

正に、代表での仕事は短い期間で果てしなく課題があります。最大3日間でチームをまとめ、選手一人一人と向かい合い真剣に意見交換を行わなければなりません。でも、私は「メッセージ」を彼達に伝達する事が出来ていると確信しております。海外でプレーしている選手達にはいかにその存在がチームにとって大事であり、そして代表が彼達のキャリアとって重要であるかを説明します。彼達には、代表に収集され日の丸を背負う為にクラブを離れたからといってチームでのポジションを失う事は無いし、仮に、代表に収集された事でクラブへ何らかの害が生じるようであれば真っ先に私が理解するであろうとも話をします。なぜなら私も過去、彼達と同じ立場を経験しているのですから!選手達もこれらの事を全て吸収してくれており、結果は自ずと出て来ているのです。

今回の話は、マスコミの事から始まり、ナイジェリア戦、そして代表へて展開しました。何故この様な話をしたのかと云いますと、それは私がこの2週間でこれら全ての事を体験し、そして反映をしたことにより、少しでも皆さんとこの経験を分かち合えればと思ったからです。どの様な心境でいたのかを。最後に、私は、「実りある良い結果」と云うものは多くの努力と幾つもの難関を乗り越えてこそ得る事が出来る「集大成」だと思っております。このプロセスにはマスコミの皆さんの直接な関与が絶対に不可欠なものなのです。

それでは皆さん、また来週!
ごきげんよう!

ジーコ直筆サイン

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