ジーコの部屋

Rodinha de bobo ボールまわし

普段のトレーニングの開始前によくやることは"ボールまわし"である。選手達が輪になって一人か二人が中に入る。輪になっている選手はボールに1回だけ触って別の選手にパス、中にいる選手はそれを奪うと取られた選手と入替わり外の輪に入れるのだ。このゲームは技術面も上達するし、面白くてリフレッシュにもなる。

あの80年代のフラメンゴでも高レベルなボールまわしを練習前によくやっていた。中にいる選手には外の輪の選手が20回パスを通すのを止められなかったら罰則を与えられ、外の輪の選手達からはからかわれることになり、股抜きをされたら、二回輪の中から出られなかった。特にあのチームではテクニシャンが多かったので面白さは倍増していた。

面白い事があったのは、フラメンゴ対フルミネンセ戦が控えている週だった。紅白戦の前の一時、私とモーゼルが中に入りボールまわしが始まった。モーゼルは準備良くスパイクを履いていた。デフェンダーのスパイクは凄いポイントが付いていていつも私達を脅かしていたのだ。彼はアルミ製の長細いポイントをユースの選手にまで見せて冗談を言っていた。

こっちにまわされ、あっちにまわされ、・・・14、15,16回。パスの数が増えて行き、モーゼルは段々エキサイトしてきた。なんとしても外に出たそうだった。あまりよく覚えていないが、ボールが真ん中を通ろうとしているのをみて、私はそれをインターセプトしようと前に出たが間に合わなかった。その時だ。モーゼルが同じように思いっきりそのボールを取ろうと足を振り切ったのだ。あの地面から空中にスパイクが動く時、見えたのは私の頬を目掛けて大きくなるポイントだった。

いやはや。引き裂く、と言う表現はまさにあの時に使ってもいいだろう。モーゼルのポイントは私の頬に深く傷をつけた。出血がおびただしく、私は芝生の上に横になり、周りは大騒動だった。ドクターは少しぼんやりしている私の応急処置をし、モーゼルは慌てふためいて泣いているのが見えた。ポルトガルのベンフィカでも活躍した偉大なデフェンダーは突然の出来事に動揺していて、凄く心配していた。

モーゼルは何がどうなったのか上手く説明出来ないまま近寄る者と話していた。私がまだぼんやりしてピッチから出る時、一言二言話し掛けてきた。私は彼の謝りの言葉を待っていたが、次のような言葉を聞いた。今でも忘れられない。後でまた全員の笑いになってしまうのだが。

モーゼルは悲しそうな顔をして言ったものだ。
「ジーコ、ごめんね。で!早くよくなってくれよ。頼むから。フラ―フルの試合があるんだぜ!日曜日のビッショ(勝利プレミアム)を失いたくないよ、ジーコ!そりゃ無いぜ!」
彼のその言葉の後、私は何を言ったらいい?偉大な人物、モーゼル。

注:"ボールまわし"=ブラジル語では「ホジーニャ・デ・ボーボ」と言い、直訳すると「馬鹿な小さい輪」となる。ブラジルでは昔からちょっとした練習の合間などに選手達がやる遊びで子供から大人まで草サッカー、ストリートサッカーの中でも幅広く普及している。指導者の中にはアップの前に取り入れる人もいる。



2004.11.4

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