ジーコの部屋

Mais do que pronto  完璧以上だ

今週はいつもの取り上げているサッカーの世界でよくある話をしようと思う。これまでと主役が変わるだけのことである。自分の周りでその人の子供や知人の自慢話にしばしば出くわす事がある。そうした経験のない人は少ないのではないだろうか?その内容は簡単に言えば、サッカーが上手い、ドリブルが上手い、凄いシュートをする、直ぐにでもクラブのテストを受けてもいい・・・と言った類の語りだ。話に聞く方も何だかその気になってしまいそうになる。普段からそうであるからサッカーの世界に入るとその日々がどんなものか想像出来る。

「私の息子は天才だよ。オーケストラの指揮者の如くボールを操り、パスなんて鳥が空を優々と舞うようなシンプルさで出すし、ドリブルも上手い、勿論マークもする、シュートだって・・・」  

私が現役の頃からそういう話は多々あったが、今でも変わらない。「選手」の父親とは「モデル」の母親と同じである。最近では「ミス」という表現はあまり使わなくなったが、若い娘がミスになったりモデルになったりする時に、本人以上に力を入れる母親の事だ。どこの家族にも天才がいるのだ。  

選手の父親がこうした言動をするのは普通である。とにかく本人が自覚している以上に一生懸命息子は凄い、上手いと評価しているわけで、最後にはそれが息子に感染し、本人をその気にさせてクラブの下部組織に入ってしまう事になった。

次の話は元フラメンゴでの選手仲間であったアジーリオが語ってくれた実際の話なのだが、笑いに落ちてしまうものである。ブロウン(アジーリオのニックネーム)は主役の名前は出さずに話してくれた。 

「君、今日は君の初めての練習だけど私は君の特徴とか、得意なプレーをちょっと聞きたい。と言うのは紹介してくれた人が凄く君はサッカーが上手いと言っていたのでね。」と、クラブチームに入ったばかりの子に監督が聞いた。

「先生ありがとうございます。絶対がっかりさせない自信があります。ここに入れてとても嬉しいです。僕は準備が出来ていますから宜しく」― わくわくしながらその選手はウォームアップをして自信あり気に答えた。 

「まあ良かろう。ところで君のプレースタイルはどうなんだ?それによって私は君のポジションを考えなければいけない」

「監督、謙虚は別にして、僕はフィールド全部支配出来ますよ。両足で蹴れるし、4時間試合しても息は続くし、目を開いたままきっちりヘデイングも出来る。でもシュートも強いですよ、特に得意なのはエリアの近くからのフリーキックです。ドリブルも上手いし、ボール離れも速い、試合をいつも把握出来ているし、それよりチームを引っ張るのが好きですね」 こう言って選手は締めくくった。 

監督はメモをしていたが、途中でその手を止めた。メモを読み返し、頭を掻き始めた。暫く考えて、考え・・・更にもう少し考えてから若い選手を前にして時計を見ながら言った。 

「そうだな、この時間コウチーニョ(当時のセレソン監督)はまだ練習中だな。もうちょっとしてから彼に電話を入れて君が行くと伝えるよ。つまり君はもう直接黄色いユニフォームを着れるようにしてやるつもりなんだ」 

「監督、本当ですか!」若い選手は驚いて聞き返した。 

「とにかく今はそんな事は忘れて試合の準備を続けなさい。練習の後私は君のポジションを何処にするか考える」そう言いながら監督はメモをした紙を破いていた。  

まあ、サッカーでは良くあることで・・・・・。  

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