ジーコの部屋

“エル”・・何それ?

最近のこのコラムで、フラメンゴとオリンピックで一緒にプレーした、元ゴールキーパーのニエルセンと再会したことを話した。その時に昔話を思い出し、1971年オリンピック予選の時に起こったエネーアスの話しを紹介した。言った通り彼は色々な面白い事件に巻き込まれていた。今回はそのエネーアスには脇役になって貰おう。主役はセレソンの監督だったアントニーニョである。

当時、オリンピック予選の準備でコロンビアのボゴタで代表チームは合宿をしていた。地元のチームと何度も親善試合を繰り返していた。試合をした場所は“エル・カンピン”と言うスタジアムだった。私達は大変調子が良く実力を発揮出来た。結果としてあの時にブラジルは予選を突破して翌年のミュンヘン大会へ行く事が出来たのだ。

今回の話はこの“エル・カンピン”という言葉が起こした勘違いだ。私達はこのスタジアムで何度も試合をするうち、慣れてきて日常の一部となって行った。もちろん“エル・カンピン”はスタジアムの名前と理解していた。ある寒い夜チーム全員がホテル・コメンダドールの会議室に集まっていた。カリで行われる試合前日のミーティングだった。メンバーは全員アントニーニョ監督の言うことに耳を傾けて聞いていた。その当時のパレイラは、フィジカルコーチだった。長々と説明するアントニーニョ監督はある事を思い出すように言った。

「みんな良く聞いておけ。君たちはあちらのエル・カピンがこちらのエル・カピンと同じかと思ったら間違いだ。そこを注意するべきだ。カリのエル・カピンは違うかも知れないぞ!」 

この話しはどうという事のない勘違いだった。私達の監督はスタジアムの名前の“エル・カンピン”を、コロンビア風に“芝”の事を言うものだと解釈し勘違いしたのだろう。ブラジルでは芝のことをグラーマ以外にもカピンとも言うのは普通の事である。このアントニーニョ監督の面白い勘違いに対して、私達全員は我慢出来ずに笑い出した。いや、全員ではない、ルーベンス・ガラシーとエネーアス、・・・(ほらほら彼の登場だ)は笑うと言うより叫びに近い大笑いをした。良く解説者などの表現で「喉に詰まった叫び」と言うフレーズがあるが、正にそれが飛び出したかのようにげらげら笑い転げて監督を困惑させた。試合前日のミーティング中だという事は全く考えもせず、ルーベンスも涙を流して笑っていた。

「エル・カピンとは最高だ!!ハッハッハハハ」

私達は監督の手前笑いを抑えて我慢したが、あの二人は笑うのを止めなかった。他のメンバーもつられて笑いそうになるのを抑え、横を向いたり手で口をふさいだり色々なことをしてごまかしていた。そのせいで、ミーテイングは台無しになってしまった。当然雰囲気が悪くなってしまったのは言うまでも無い。不機嫌になってしまった監督に気を使ったパレイラは、二人を会議室から退場させた。

あの頃、この話がもっと面白かったのは、あのルーベンスは普段からとても静かで誰からも尊敬されていた人物であった事。特に指導部からも一目置かれていた。それなのに初めてのミーテイングで退場させられたのだ!彼と一緒にいたのは誰だ?誰だ?・・・エネーアスだよ。彼はさらにエル・カピンで冒険をする羽目になる・・・・・。

 

>一覧へもどる