ジーコの主張

8冠のパワー

[2009.08.16]

おそらくこれから何十年か後に、数多くの人々が記憶を蘇らせて、ミレニアム初頭の男子バレーボールではブラジル代表の活躍お軌跡に関して語ることでしょう。世界大会では最近の10年間で表彰台の最上段を7回経験しており、それ以外にも、オリンピック大会を一度、世界選手権を2度、そして、ワールドカップを2度優勝しているのです。チャンピオンとしてのスピリットを失わせずに世代交代を行い、大いなる難題を乗り越えながら、時の流れを超越出来る、コート外での名手である、ベルナルジーニョ監督お墨付きの常勝軍団なのです。

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今回は、私がサッカー日本代表の監督を務めていた時代に日本で身近で体感した世界選手権の制覇も含め、このチャンピオン・ブラジルをテーマにすることは十分だと言えるでしょう。グランプリに参戦しようとしているゼ・ホベルト率いる女子代表を想起しつつ、彼らのその他のタイトル獲得を列挙しながら、終わり無き世代交代に関して話すことも可能です。更には、現在では世界スポーツ史に於いて最も偉大なる指導者の一人でもある、ベルナルジーニョ監督の軌跡に関して触れることも出来るでしょう。彼は、勝者を試みる全ての人々にインスピレーションを与える一連の才能を兼ねている人物なのです。

今週の本コラムでは、更に若しかしたら前ジェネレーションの生き残りでもあり、チームで唯一攻撃参加が出来ないポジションでもあるリベロ担当で、世界大会で最優秀選手に選出された、セルジーニョ選手を取り上げることも出来ます。彼は殆どポイントをゲットすることはありません。そして、セルビア戦で決定的な得点を決めて8回目のタイトルを確実とした、既にバレーボール史上最も優秀な選手の一人に名を連ねているジーバ選手にオマージュを贈ることも出来ます。これらは、全てが良き選択肢だと言えるでしょう…。

でも、私は本コラムを07月02日に満23歳の誕生日を迎えた若きエースに捧げたいと思います。皆さんの多くは気付いていないかも知れませんが、彼は2006年と2007年にもグループの一員として出場しており、この8冠の軌跡に於いて3冠を達成しているのです。偉大なる元バレーボール選手夫妻の息子である彼は、私自身が理解している、大変な重圧を感じたことでしょう。残念ながら、元選手の父または母と同様の道を歩む決心をした子供達は苦労を強いられるのです。それにも関わらずに、彼は両親の歩んだ道程を進み、正確には母ヴェラ・モッサがアタッカーだった半面、彼は父同様にセッターのポジションを選んだのです。

彼は、元選手の子供と言うだけで既に偏見の目で見る警戒者達に打ち勝つ必要があったのです。そして、2007年のパン・アメリカン大会へ向けての段階で、ベルナルジーニョとリカルジーニョ選手のトラブル後に、自身の父から代表に召集されてからは、更にこの状況は悪化しました。紛れも無く彼は、「監督の息子が故に代表に召集されている」との発言を、例えひそひそ話しであれども、何十回と聞かされたことでしょう。でも、彼は全てを超越して、現在の代表のレギュラーセッターは、私の次男と同名でもある、この23歳の若者、ブルーノ・ヘゼンデです。

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最近はボレーボールを遥かなる地から動向を見守っている私ですが、ブルーノ選手が成功してくれることを大いに応援していました。実際には何ら責任も無かったにも関らずに、リカルジーニョ選手のエピソードでの理不尽さを思い出します。そして、ブルーノ選手の才能に疑問を抱いていた者は、今後は受け入れざるを得ません。元名選手として過去にはコートで活躍をした名セッターであり、現在は監督として大御所の、息子として生を受けた、世代を超えた偉大なる選手が成熟したのです。ブルーノ選手は、今回の制覇に値すべく人物なのです。決してグループの他の若手メンバーがそれに値せず、経験豊富な先輩達が重要で無いと言っている訳ではありません。

表彰台での国歌斉唱時の彼の涙には感動させられました。両親の道程を歩む子供達が如何に苦労するかを見届ける父のような心情です。そして、ブルーノ選手は大変困難な一歩を、前進したと言えます。私の意見では、ブルーノ選手は8冠に値する力を持ち合わせていたのです。プレッシャーに耐え、疑いの視線を跳ね返して、数多くの難題を乗り越え、彼のキャリアはスタートを切ったばかりだと教えてくれました。我らが偉大なるセッター軍団の仲間入りを果たすべき新たな人物なのです。

ベルナルジーニョ監督、パラベーンス。男子バレーボール代表の選手達及びサポートスタッフの皆さん、更にはブラジルバレーボール連盟の関係者の方々、おめでとうございます。そして、ブルーノ・ヘゼンデ選手には、特別なるオメデトウの祝辞を伝えたく思います。

それでは皆さん、また来週お会いしましょう。
ウン・グランデ・アブラーソ!

映像の8分48秒時点でのブルーノ選手が涙するシーンをご視聴あれ。



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